百日咳(Pertussis、Whooping Cough)とは
ハイサイ、院長の高良です。少し前から周囲で猛威を奮っているようです。今回自己研鑽の意味も含めて少しまとめてみました。
百日咳は、百日咳菌(Bordetella pertussis)という細菌によって引き起こされる呼吸器感染症です。強い咳が長期間続くことから「百日咳」と呼ばれ、感染経路は、感染者の咳やくしゃみに含まれる飛沫や、手などに付着した菌を介して起こります。
症状の特徴と経過
1. 潜伏期 7〜10日間
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期間: 感染後7~10日間(5日〜3週間の範囲)
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特徴: 症状は現れず、菌が体内に潜伏します。
2. カタル期 2週間
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症状: 鼻水、涙目、軽い咳、微熱など、風邪に似た症状が現れます。
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注意点: この段階では風邪と区別が難しいため、感染していても自覚せずに他者に伝播する可能性があります。
3. 痙咳期 2~3週間
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乳幼児の場合: 激しい痙攣性の咳発作が現れ、咳発作後に嘔吐することもあります。
吸気時に特徴的な「ウープ音」が認められることも。 -
学童期期以降の場合: 痙攣性の咳発作はあまり見られず、長期間にわたる乾いた咳が主症状とな
るため、見逃されやすいです。
4. 回復期 2~3週間
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経過:
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咳発作は徐々に軽減しますが、完全に収まるまでにトータル2~3か月かかることもあります。
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合併症と注意点
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乳幼児の場合:
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頻回の咳き込み後に嘔吐症状があることも。
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学童期移行の場合:
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4種混合ワクチンの効果は3~5年で減弱し、12年で消失するため、予防接種受けていても百日咳はかかります。
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- 共通
○ 痙咳期の症状は百日咳毒素によるものであるため抗菌薬による治療ですぐに効果的面にせきがおさまることはあまりない。( 毒素は抗菌薬で除去されないため)
診断と検査方法
臨床診断
症状 | 備考 |
①咳がある | 1歳未満では期間の限定なし。1歳以上では1週間以上 |
②吸気性笛音 | 息を吸うときに笛のようなヒューという音が出る:whooping |
③発作性の連続性の咳き込み | スタッカート様咳嗽 |
④咳き込み後の嘔吐 | |
⑤無呼吸発作 | チアノーゼ(顔が紫色)の有無は問わない |
①+(②~⑤のうち1つ)で百日咳の臨床診断例となる 小児科呼吸器感染症診療ガイドラインより
百日咳の確定診断は、臨床症状のみならず以下の各検査法の組み合わせによって行われます。それぞれの検査には長所と短所があり、症状の経過期間や対象となる年齢層によって使い分けられます。
1. 遺伝子検査(PCR/LAMP法)
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特徴:
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感染初期(カタル期~痙咳期初期)の診断に有用で、菌のDNAを検出するため生菌がなくても結果が得られる。
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感度は高い反面、検体の採取方法や検査環境(例えば、他の検査室でのワクチン由来のDNA汚染など)により、わずかながら偽陽性のリスクが指摘されています。
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注意: 発症後3~4週間以降は、菌量減少により偽陰性となる可能性もあります。
2. 細菌培養検査
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特徴:
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陽性になれば100%の特異性を有する「金の標準」とされる検査方法です。
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ただし、専用の培地を用いる必要があり、検出感度は乳幼児でも50%以下とPCRより低く、特に発症から時間が経過した症例(成人では発症2週後など)では陽性率が低下します。
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注意: 発症後2週間以内に採取することが望ましいです。しかし感度が低い
3. 血清学的検査
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特徴:
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患者の血中で抗百日咳毒素(PT)IgGや抗FHA抗体の上昇を確認する方法です。
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ペア血清(急性期と回復期)の比較により4倍以上の抗体価上昇が認められれば、確定診断の根拠となります。
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注意: ワクチン接種後も抗体が上昇するため、接種歴の把握が重要です。また、感染初期の検査には不向きです。発症後2週後から抗体価は上昇します。
4. 抗原検査(イムノクロマトグラフィック法)
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特徴:
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鼻咽頭拭い液中の百日咳菌抗原(たとえば、リボソームタンパク質L7/L12を標的)を迅速に検出でき、結果は約15分以内に得られます。
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検査操作が簡便で、専用の機器を必要としないため、ポイント・オブ・ケア(POC)診断として有用です。
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偽陽性の懸念:
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検体中の粘性物質や人の抗マウス抗体(HAMA)などの影響、さらに百日咳菌と抗原が共通するBordetella parapertussisやBordetella holmesiiの存在によって、偽陽性となる可能性が報告されています。
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具体的には、ある研究ではPCRとの一致率は高いものの、検体の状態や採取方法により、抗原検査で偽陽性となるケースが散見され、「結果判定時は必ず慎重な目視確認や、必要に応じた再検査(例えばPCRや培養との併用)が推奨される」と示されています。
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製品ごとに性能評価(例:リボテスト® 百日咳では、PCRとの比較で陽性一致率86.4%、陰性一致率97.1%、全体一致率95.9%と報告されています)がされているものの、環境や検体の特性によっては偽陽性のリスク(報告によっては偽陽性率39%!)が高まるため、検査結果の解釈は臨床症状や他の検査結果と総合的に行う必要があります。
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治療と予防
治療
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抗菌薬:
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マクロライド系(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン)が第一選択となり、特にカタル期に早期投与することで症状の進行抑制や菌の排出期間短縮が期待されます。
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感染拡大防止のため、咳が改善しても医師の指示に従い、処方された抗菌薬は最後まで服用することが重要です。
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対症療法:
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特に痙咳期に入った患者では咳が長引くため、鎮咳薬や去痰薬、場合によっては吸入薬などで症状の緩和が図られます。
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予防
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ワクチン接種:
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日本では、乳幼児期に三種混合ワクチンとして4回接種が推奨されています。
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感染拡大防止:
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患者はマスクの着用、咳エチケット、手洗いなどの基本的な対策を徹底し、特に乳幼児や免疫力が低い人への感染伝播を防ぐ必要があります。
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まとめ
百日咳は、百日咳菌による呼吸器感染症であり、初期は風邪と区別が困難ですが、典型的な咳の持続や発作性咳発作を呈します。
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小児・乳幼児では、
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激しい痙攣性咳発作や咳発作後の嘔吐、さらには無呼吸やチアノーゼなどの重篤な症状が見られ、合併症のリスクも高いため、迅速な診断と治療が必要です。
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成人では、
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痙攣性の咳発作はあまり見られず、長引く咳のみの場合が多いため、見落とされがちですが、家庭内や保育園、学校内での感染源となるため注意が必要です。
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