お腹の調子は食事から
ハイサイ!院長の高良です。
安謝ファミリークリニックとして再スタートして3年目となります。これからも地域の健康の手助けができるよう日々邁進してまいりますので、宜しくお願い申し上げます。
まだまだ「ここは大人も見ていただけますか?胃カメラはやっていますか?」とご質問をいただくことも少なくありません。認知していただけるように今回も消化器領域の内容を書かせていただきます。
お腹の調子は食事から~今回は過敏性腸症候群にfocus~
学生の頃からよくトイレに行っていた。仕事中もお腹がよく痛くなり集中できない。という方は過敏性腸症候群かもしれません。過敏性腸炎は聞きなれない病気ですが、有病率は人口の10~20%と推定されており実はありふれた疾患なんです。
原因とメカニズムははっきりとは解明されていないが、以下の可能性が示唆されています
1. 腸管運動異常:腸の収縮が過剰または不規則
2. 内臓知覚過敏:通常では痛みと感じない刺激を過剰に感知
3. 脳腸相関の異常:ストレスが腸神経系に影響(セロトニン関与)
4. 腸内細菌叢の変化:特定の菌バランスの乱れ
5. 食物不耐性:高FODMAP食品(小麦・乳製品など)が誘因
実際の診断はRome Ⅳ診断基準を用いて診断されます。もちろん、診断前にはがんや炎症性疾患など多疾患の関与も除外しなければいけません。特に危険兆候がある場合は注意が必要です。
🏥 診断基準(ローマIV基準)
- 過去3ヶ月中、週1日以上腹痛が繰り返し起こり、下記の2項目以上を認める:
- 腹痛が排便で改善
- 排便頻度の変化を伴う
- 便形状の変化を伴う
⚠️ 注意すべき「危険なサイン」
- 体重減少 6ヶ月以内の予期せぬ3kg以上の体重減少
- 血便
- 関節痛
-身体診察での異常所見
診断されたものから大まかに下痢型、便秘型、混合型に分けて治療を行っていきます。
- 下痢型:水様便が頻繁きたすもの
- 便秘型:硬い便やコロコロした兔便が優勢のもの
- 混合型:下痢と便秘を交互に繰り返すタイプ
💊 治療法
1. 生活習慣改善
低FODMAP食(後述)
規則的な食事
ストレス管理:適度な運動、睡眠など
2. 薬物療法
ますは、全てにおいてまずはプロバイオティクス(整腸剤)を使用します。
下痢型
- イリボー(腸管運動調整薬)
便秘型
-アミティーザ(水分分泌促進薬)
混合型
ポリフル(高分子重化合物)
トリメブチン(腸管運動調整薬)
うつ傾向がある場合は
- ドグマチール・アミトリプチリン(抗うつ薬)
その他、症状に合わせて漢方など併用する場合もあります。
IBSは命に関わる病気ではありませんが、QOL(生活の質)を大きく低下させます。
気になる症状がある方はぜひ病院へご相談いただきたいですが、病院へ来る前に食事療法を試してみても良いと思います。その一つに低FODMAP食があります。
低FODMAP食って何?
Fermentable(発酵性)、Oligosaccharides(オリゴ糖)、Disaccharides(二糖類)、Monosaccharides(単糖類)、And Polyols(ポリオール)の頭文字を集めてFODMAPです。
1. 低FODMAP食の機序**
小腸で吸収されにくく、大腸で腸内細菌により発酵される短鎖炭水化物です。これにより、以下の問題が生じます:
浸透圧の上昇:腸管内に水分を引き込み、下痢を誘発。
ガス産生:発酵により水素やメタンが生成され、腹部膨満や腹痛を引き起こす。
IBS患者は腸管の過敏性や内臓知覚過敏を抱えるため、FODMAP摂取が症状悪化のトリガーとなります。
2. 低FODMAP食の効果を支持する研究
a. 症状改善のエビデンス
Gibson & Shepherd(2017)のシステマティックレビューでは、低FODMAP食が50-80%のIBS患者で症状軽減をもたらすと報告されています。特に腹痛、膨満感、下痢型IBS(IBS-D)への効果が顕著です[1]。
Staudacher et al.(2011)のランダム化比較試験(RCT)では、低FODMAP食を6週間実施した群で、腹部症状スコアが有意に改善(p<0.001)しました[2]。
b. 腸内環境への影響
Halmos et al.(2014)の研究では、低FODMAP食が水素ガス産生を減少させ、腸管運動を正常化することが示されました[3]。
McIntosh et al.(2017)は、低FODMAP食が腸内細菌叢の組成を変化させる一方で、短期的な実施では有益性がリスクを上回ると結論づけています[4]。
3. 他の治療法との比較
従来の食事療法(高食物繊維、規則的な食事)よりも低FODMAP食の方が症状改善率が高い(Böhn et al., 2015)[5]。
薬物療法との併用で相乗効果が期待されます。
4.まとめと院長の私見
低FODMAP食はIBSの症状管理に有効な介入法だと思います。しかし発酵食品の除外は長期的な安全性や腸内細菌叢への影響も懸念されます。経験上では牛乳や小麦を除外するだけでも症状が改善される方も見受けられますのでまずはそこから始めてみてもいいかなと思います。
参考文献
[1]: Gibson, P. R., & Shepherd, S. J. (2017).Gastroenterology, 152(5), 1240-1251.
[2]: Staudacher, H. M., et al. (2011). Journal of Gastroenterology and Hepatology, 26(S3), 125-128.
[3]: Halmos, E. P., et al. (2014). Gastroenterology, 146(1), 67-75.
[4]: McIntosh, K., et al. (2017). Gut, 66(8), 1517-1526.
[5]: Böhn, L., et al. (2015). Gastroenterology, 148(5), 936-947.
具体的なFODMAPに関しては、このサイトがわかり易かったです→田辺三菱製薬サイト